
1~5で書き連ねてきましたように、今年の後半は、まあ色々な検査を受けてみました。そしてその結果が全て「異常なし」という目出度いものでした。しかしこれで、当面の癌の心配はないかと言えば、さにあらず。胆嚢・肝臓・膵臓や縦隔と言われる胸の奥の部分など、いわゆる実質性臓器の癌の可能性はまだ残っています。
これらの臓器については、PETやMRIで全身検索を行うのがよいでしょう。そのためには10万円以上の料金がかかりますが、この際、思い切ってその検査も受けてみることにしました。ついでに肺のCTと、脳のMRIも追加しました。日本人の死因は、癌が圧倒的に多いのですが、心・血管系の疾患(心筋梗塞など)と脳の疾患(脳卒中など)がそれについで多いです。心臓については比較的頻繁に心電図検査は受けていて、いまのところ問題はなさそうですが、脳についてはやはりこれまで1度も検査を受けていなかったので。
さて、このMRIやCTの検査というのは、いわゆる非侵襲的検査であって、機械の中でただ横になっていればよいだけの検査です。痛くもかゆくもない検査ですから、これまでの検査のときと違って、大いに気が楽です。前の日の食事制限もありません。ただ、検査日が近づくにつれて、「これでガンが見つかったらどうしよう」という不安は大きくなっていきます。ここまでの検査で何もなかったのだから、次の検査で異常が指摘される可能性は高いのではないか・・・などと、物事を悪い方悪い方に考えてしまっていました。
果たして、検査日当日がやってきました。朝9:30受付で、12:00頃検査が終わると聞いています。「2時間半もかかるのかな」と疑問には思いましたが、同行してくれた家人には「きっと1時間くらいで終わると思うよ」と言い残して検査室に入りました。さっそく技師さんは、
「体を固定した状態で、狭いところに長く入りますが、大丈夫ですか?」
とあらためて私に確認を取ります。しかしこの場に及んでは、これは「質問」という名を借りた「宣告」ということになります。
「今からお前の体を固定して狭いところに押し込めるぞ」
そのときの私は、それがいかに辛いことであるかは知るよしもなく、
「はいはい」と二つ返事で答えてしまいました。
次に「検査中は大きな音が出ますので、ヘッドフォンをしておきましょう」と技師さん。今どきは、耳の穴に挿入する小さなイヤフォンが主流なのに、昭和を連想させるような、とてつもなく大きなヘッドフォンを、有無を言わせず私の頭に装着します。そのヘッドフォンを装着したままベッドに横になると、ベッドの頭が来る部分の両側に出ているレール状の部分に、このヘッドフォンがピッタリはまり込むようになっていて、つまり頭が動かせないようなことになります。
親切を装ってヘッドフォンを貸してくれるというテイで、私の頭を固定してしまうというやり方には好感はもてません。その後、ベッドごと私は狭い筒の中に入れられ、ヘッドフォンから送られてくる「息を吸って、吐いて」という指令に何十回も従わせられることになります。ベッドと言ってもそれは単なる固いプラスティックの板であって、そこに布団が敷いてあるわけではないので、次第に背中や腰が痛くなってきます。それでも、体の重心を少しでも移動させるための身動すら取れる状態ではないのです。おなかが動かないようにと、おなかの上に載せられたオモリの加重も次第に不快な圧迫として感じられます。
もう1時間も経ったのではないかと思う頃には、一刻も早くこの機械から出たいと思うようになります。しかし全く終わる様子がありません。ベッドが移動して、下腹部まで検査したかと思うと、ベッドはまた元の位置に戻って初めからやり直しみたいな感じで検査が延々と続くのです。
90分くらいして、ようやくベッドが筒の外へ移動して、技師さんが「おつかれさまでした」と言いました。「やれやれ」と思う間もなく、「続いて脳のMRI検査も行いますが、よろしいですか」と言います。よろしいわけないじゃないか、ともかく1度、体勢を立て直したいという一心ですから、「すみません、トイレに行かせてください」と懇願せざるを得ない状況に追い込まれます。
「では、1度起き上がってください」
そう言われても、私はもう全身が痛くなっています。ツルツルのベッドの上で、体をどのように動かしたら起き上がれるのか、見当もつきません。技師は手を貸すでもなさそうなので、仕方がないので這々(ほうほう)の体で起き上がり、トイレに行きました。
その後、脳のMRIが30分、肺のCTが5分ほどで、全ての検査が終了しました。
後日結果が戻ってきまして、脂肪肝と年齢相応の血管系の石灰化、慢性副鼻腔炎以外、懸念すべき問題点は見つかりませんでした。しかしこれからは、こういった検査を、年に1回は受けるべきであろうと思います。これは時間的にも肉体的にも経済的にも少なからぬ負担ではありますが、やむを得ないことですから、仕方がありません。そうやって1日でも長く健康で、自分なりに世間のために働きたいと思います。