たまには郊外のおしゃれな料亭で晩餐。しかし、自動車を運転していくので、お酒を呑むことはできません。仕方がないので、「食前酒」は米麹で作った、アルコール0%の甘酒ということにしました。
「冷たいモノと暖かいモノのご用意がございます」
「では、ヒヤで」
ほどなくしてワイングラスに注がれた白い甘酒がしずしずと運ばれてきました。一口舐めてみるとこれが格別においしい。最近、甘酒が健康によいとかで、スーパーマーケットなどでも、「甘酒コーナー」が出来ていたりしますね。しかし、こういう立派なお店で出される甘酒は、純正の甘酒なのでしょう。飲み物のメニューにもそれらしき説明書きがありましたから。呑んだ後にえも言われぬ上品な甘みが口いっぱいに広がります。
私はご機嫌になって、甘酒がこんなに美味いものなら、毎日だって呑みたいね。アルコールなんて入っていなくたっていいね。などと言いながらしきりにグラスを口に運びます。しかし、だんだんと気持ちが落ち着いてくると、差し向かいの家人と目を合わせるたびに、二人とも同じことに気づき始めていることが、少しずつわかり合えてきます。そこで私が、
「この甘酒は甘くておいしいね」
と、水を向けると、家人はそこにかぶせるように、
「甘いです」
と。
その言葉で、私の気持ちがハッキリして、次に若い仲居さんが来たときに思い切って尋ねてみました。
「この甘酒、お砂糖が入っていますか?」
すると仲居さん、屈託のない笑顔を向けて、
「入っています、入っています!」
砂糖がいけないのではありません。こういう厳(おごそ)かな佇(たたず)まいのお店で出された米麹の甘酒なので、そこに砂糖なんか入っているはずがないと勝手に思う自分(たち)がいけないのです。
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駐車場に車を止めて、人気のない坂道を歩いて下り、大きな水車が回る広々とした誰もいないお庭を散歩するように歩いて、料亭の入り口にさしかかると、私たちが到着したことがどうやってわかったのか、玄関がするすると開いて、なかから仲居さんが出てきました。
「ようこそいらっしゃいました」
履き物を脱いで上がると、帳場の男性が、
「マスクはお持ちですか?」
「・・・あ、ああ、マスクなら車に置いてきました。」
男性は少し緊張したような面持ちで、
「それではこちらを、ここでご着用ください」
と言って、個包装されたマスクを2枚くださいました。
マスクをつけたら、部屋まで案内されました。途中誰も話さず、誰ともすれ違いませんでした。通されたのは大きな個室です。中居さんはすぐさま説明を始めます。
「お食事をお召し上がりになるまでは、マスクをつけたままでお願いします。お食事の際は、お手元のジップロックの中にマスクを収納してください」
そういって、出ていきました。私たち二人は今日は、家の中でも、車の中でも、ずっと二人きりで過ごしていて、もちろんマスクはしていませんでした。ところがここに来て急に二人でマスクをして差し向かいで座ってみると、大変滑稽な感じがしました。それはそれでオモシロい体験です。
食事が終わったら私たちはまたマスクを着用して、部屋を出て、帳場でお会計をして建物を出ました。そして建物をでたらスグにマスクをはずしました。外には誰もいなかったからです。